最近の流行りに『コスパ』や『タイパ』という概念がある。それぞれ、コスパ=コストパフォーマンス、タイパ=タイムパフォーマンスの略語であるが、いずれも特に若い世代の間で流行っている概念である。コスパもタイパもともにわかりやすい日本語に直すと“費用対効果が良いこと”“時間対効果が良いこと”というような効率重視の考え方であるが、このような考え方は情報量が多い今日の社会では非常に大切な考え方である一方で、コスパやタイパだけでは決してたどりつけない世界やレベルがあるということも若い世代には知ってほしい。
最近流行りのYouTube ショート動画やTikTok動画などは、サクッと情報を見たい・聞きたい・調べたいときには非常に重宝し、これ自体は素晴らしいものだ。要点のみをコンパクトに拾い上げるという意味では非常によくできた情報収集方法で、日々の時間に追われている人たちからすれば、まさに『コスパ』や『タイパ』は最高である。それはまるで、このようなショート動画のみで必要な情報をほとんど収集できてしまうと“錯覚”するほどである。
しかし実際には、これらショート動画で得られる情報は、単なる情報のつまみ食いであり、深い理解や密に考えなくてはならない時は、使い方を誤るとむしろ害悪になる可能性もある。わかりやすさを重視するあまり、厳密には正しくない情報や考え方もあり、その情報を最初に触れてしまうと『そうであるもの』として頭の中で整理がされはじめ、本来の正しい情報に対する強烈なバイアスがかかるのだ。よって、活字で理解しなくてはならないものとサクッとショート動画で理解して良いものの線引きができない人は、一定のレベルの理解まではスラスラと進むが、その先の真に必要なレベルまでうまく進まないことがある。
たとえば、医学部や難関大受験のような場合、高校範囲に関してはかなり深い理解を求められるのが実情である。上述のように、サクッと理解すべきものはサクッと理解してしまって良いが、深い理解と定着を要する分野や問題に対しても全く同じアプローチをしてしまうと、結果的に合格ラインまで届かないという事象が生じる。共通テストの平均点程度で十分な志望校と、共通テストの平均点をはるかに超える点数を要求される志望校とで、勉強に対する考え方や姿勢は根本的に異なるのだ。
この根本的な違いは、わかりやすさ重視でテクニカルな方法に重きを置いて取り組むか、多少難解でも本質的な理解を先行させて取り組むかの違いとも言えるだろう。『Aを見たら条件反射的にBと答える』『問題中にCが出てきたらDと答える』というような短絡的な解法は、コスパやタイパは最高だが、ある意味で思考停止の解法であり、もしそれだけの理解で止まると医学部や難関大に合格することは不可能だろう。本質的な理解が前提で、そういった解法テクニックがあり、必要に応じて使うというスタンスであれば問題ないが、そうでない場合は注意が必要だ。
全員が全員にやや難解で本質的な理解までを要求することは過分だが、少なくとも一定以上のレベルを目指す人には、コスパやタイパのみではたどりつけない場所があることは知っておいてほしい。